堤医師(北里大学精神科医師)と顧問医師契約を結び、
組合としてピアサポート(注;本文参照)の有効活用体制を目指します。
[心理的ストレスに関して−航空の職場での実態は?]
阪神大震災のような災害や、犯罪に係わる心理的ストレス後遺症の事例が、PTSD (心的外傷後ストレス傷害)の用語でマスコミ紹介されています。
私たちはこれらの症状が「航空機事故」や「重大インシデント」でも発生している事を知っています。
このことは当事者だけでなく、救援活動に係わる警察、救援関係者や、事故調査関係者にも発生することも報告されています。
今回契約いただいた堤先生は、航空に対する認識が深い人物で、私たちが働く航空の職場を
『事故、インシデントの異常事態だけでなく、正常運航が継続している状態でも、悪天候や機材に起因する遅延やCANX 等を考えれば、ストレスを感じる状況が多い環境である』
と分析されています。
私たち航空で働くものにとって、この分析は十分に納得できる考察といえます。
[この取り組みに至る経緯]
PTSD の言葉が最近ではマスコミに見受けられ、この言葉に象徴される心理的ストレスに関しての認識が深まってきていますが、これもここ20 年程度と比較的歴史の浅い医療分野となっています。
現状では、未だに「心理的ストレス」に関しての認識が不十分であり、
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「心理的な対応に弱い特別な人だけが陥るもの」
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「本人の頑張りが不足しているから」
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「職業上の様々な訓練を受けると陥らない」
等の、誤解や偏見も多いと思われます。
ストレスそのものは適量であれば「やる気」に繋がる有効な部分もあります。
しかし、その量が過大になるとコントロール可能な範囲を超えてしまします。
その結果、「食欲不振」、「睡眠不足」、「動悸」等の様々な症状となって現れてくることが解明されています。
(詳細は心理的ストレスとは何か参照)
このような状況に関して、「周囲の家族」や、「仲間の対応」も有効ですが、医療専門家による助言が必要な状況も考えられるため、今回の契約医師制度を選択しました。
(心理的ストレスへの対応に関して)
◎、PTSDやASD
(急性ストレス傷害)は
「ネガティブな人、内気な人がなり易いわけではない」
「やる気がないのとも違う」。
◎、特に、航空業務に携わる人は、常に事故やインシデントと隣り合わせであり、誰でもPTSDやASDにかかる可能性があります。
◎、更に、最近ではPTSD
、ASD 以外にもCIS (Critical Incident Stress )といったように、様々な状態を区別する用語使用が一般的になりつつあります。
◎、心療内科は普通の人が受診しているものです。
◎、CISM、CIRPといった「予防的な対応」も注目されています。
CISM :Critical Incident Stress Management 、
CIRP :Critical Incident Stress Response Program
◎、しかし、何も知識がないままケアに係わることは、状況を悪化させる可能性もあります。
◎、深刻な状況にならないための予防措置として、周辺いる人によるピアサポート(PEER SUPPORT =仲間による支援)が有効であると認識されています。
◎、日本では労働安全衛生法に規程はあるものの、まだまだ企業側の意識も薄いため、組合が果たすべき役割は大きいと考えています。
(米国における心理的ストレスに係わる状況の考察−航空事故・インシデント関連)
*アメリカではこのような状況に対する対応は、進んでいるといえます。
*航空事故等の支援として「航空災害家族支援計画(FEDERAL FAMILY ASSISTANCE PLAN FOR AVIATION DISASTERS )」という法的な裏付けに沿って、公的支援活動も実施されています。
*米国の航空関係ではUSALPA が定期的にピアサポート講習会を実施し、PSVと呼ばれる体制(PSV ;Peer Support Volunteer )による対応可能者の増加に努力していています。
*このような活動は、他の職業分野(消防、警察等)でも実施されていて、アメリカではボランティアとしてのメンバー登録も実施されています。
日乗連、安全会議でも、このような講習会の開催も視野に入れ、ピアサポート体制の構築を目指しています。
(私たちの働く航空現場での職場環境)
●「頑張る人」、「真面目な人」、「自分は大丈夫と信じている人」が多い職場であり、このような人に心理的ストレスに係わる症状はないとの誤解があます。
●航空は「常に異常のない」ことが期待されている。しかし、悪天候に象徴される人為的コントロールの及ばない異常事態が日常的に発生する職場である。
●更に、インシデント、重大インシデント、事故の防止は常に心掛けているが、その発生の可能性は常にあり、誰もがこれらによる心理的ストレスに係わる可能性が大きい職場環境である。
●航空災害は「様々な要素が複雑に絡まり、何かがきっかけとなり、悪い状況が重なった時にインシデント、事故に至る」のであるが、心理的ストレスによる症状に陥る経過も、航空災害発生と同様の状況であるといえます。
●このような状況(事故・インシデント、そして、心理的ストレス)に陥った人は「偏見に対する恐れ」から、自分の中に閉じこもる傾向にあり、周囲に相談をしないことにより、感情の発散も出来ず、状況を悪化させることも多いと報告されています。
(私たちが目指す方向)
○、PTSDに至る以前の段階での予防的措置として、「ピアサポート」によるケアが重要となります。
○、「感情の発散」が重要であり、その後、必要であれば医療的なケアを受けることも必要です。今回、このために契約医師制度を確立しました。
○、放置することはダメであり、そのために一番必要なのは「相談できる環境」つくりです。
○、相談することは特別なことではなく、状況に応じて必要なことの認識を深めていくことが重要です。
○、電話番号やメールでの「相談に応じる体制」の構築が必要です。
(以下の組合には講習会修了者がいますので、各組合内での対応も可能です);アルファベット順
*ACA:全日空乗員組合
*APU:エアーニッポン乗員組合
*CCU:Cabin Crew Union
*JAS労組
*JCA:日本航空機長組合
*JCU:日本航空客室乗務員組合
*JFU:日本航空乗員組合
*全運輸省労働組合
(安全会議 、日乗連、各自の所属組合経由でも結構です。)
[最後に、堤医師からのもう一つの助言]
「このケアで重要なことは、」
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「傷」そのものを認めないといったような、「こんなことは無かった事にしよう。」ではなく、状況を認識し、修復した傷跡を認めて、「ストレス症状がコントロールできれば通常生活に復帰した。」との認識を、当該人も周辺にいる人も深めることが重要です。
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この時期が終了したら通常生活となります。
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この対応には「秘密の厳守」が必要であり、「通常生活への復帰時には人事考課としない企業姿勢」も重要となります。
このような対応体制、理解を深める取り組みへの参加と協力をお願いします。
堤医師のプロフィール
堤 邦彦(昭和29 年5 月6 日生)
(略 歴)
1980 年、北里大学医学部卒業、同大学 精神科入局
1982 年、同大学医学部大学院入学
1986 年、同大学医学部大学院修了、同大学医学部精神科助手
1988 年、同大学医学部精神科講師、現在に至る。北里大学病院救命救急センターにて心のケアを専門としている。
<専 門>
リエゾン精神医学、災害精神医学、総合病院精神医学
<その他>
日本で初めての救命救急医療センターに常駐してこころのケアにあたる精神科医として注目されテレビ雑誌など数多くのメディアに取り上げられている。阪神淡路大震災では発災後2ヶ月間現地でケアにあたり、ペルー大使館公邸占拠事件においてはオペレーションを、東海村臨界事故ではマニュアル作成など、こころの危機管理をおこなっている。
また、臓器移植医療関係においては、日本人で唯一、「医療者向けヨーロッパ臓器提供病院教育プログラム」の指導免許を取得している。
最近はドラマや映画の医療指導なども手がけている。(「グッドラック」も手がけられました。)
― 以上 ―