3 宇宙線って何ですか?

@一次宇宙線と二次宇宙線 Ido.gif (2768 バイト)

 宇宙線とは、読んで字のごとく宇宙空間を飛び交っている放射線のことです。厳密には、宇宙空間を直接飛び交っている放射線のことを「一次宇宙線」といいます。その主成分は陽子ですが、陽子1000個に対し、約100個のヘリウム原子核、8個の炭素〜酸素にいたる原子核、3〜4個のさらに重い鉄にいたる原子核、という割合で構成されていることがわかっています。
 一次宇宙線は発生源によって「銀河宇宙線」と「太陽宇宙線」に分類することができます。銀河宇宙線は寿命のきた星が爆発して消滅する、いわゆる超新星の爆発に由来するとされていますが、まだ十分にはわかっていないようです。太陽宇宙線は太陽表面での爆発、いわゆる太陽フレアに由来するものです。一次宇宙線の陽子のエネルギーは1〜10^14メガエレクトロンボルトの非常に広い範囲に分布し、300メガエレクトロンボルトあたりにエネルギーのピークがあるといわれています。太陽宇宙線の陽子のエネルギーは銀河宇宙線のそれよりはるかに低く、ほとんど大部分は1〜40メガエレクトロンボルトの範囲にあります。したがって、大雑把にいえば、100メガエレクトロンボルトを超える陽子は銀河宇宙線であり、40メガエレクトロンボルト以下の陽子は太陽宇宙線であるといえます。
 また、この一次宇宙線が地球大気に降り注ぎ、地球大気を構成するチッ素、酸素、アルゴンなどの原子核と衝突した結果として核反応が起こり、新たに生まれた陽子、中性子、パイ中間子、ミュー粒子、電子、ガンマ線などの放射線を「二次宇宙線」といいます。地上に降り注いでいる宇宙線はすべて二次宇宙線で、一次宇宙線がそのまま直接地上に降り注ぐことはありません。それなら、航空機乗務員が乗務している海洋表面から1万〜1万2000メートルあたりの高さはというと、この場合にもすべて二次宇宙線が降り注いでいると考えてよいと思います。二次宇宙線の成分は海洋表面からの高さによってかなり異なることがわかっています。海洋表面付近では、ほとんど大部分がミュー粒子と電子であるといってよいと思います。

A空気の吸収線量率の高度による変化

図2 各緯度における4つの高度での宇宙線に起因する空気の吸収線量率

Taiyo.gif (3127 バイト)  時間当たりの吸収線量を吸収線量率といいますが、宇宙線(二次宇宙線)による空気の吸収線量率は、実際には電離成分と中性子成分に分けて測定されます。電離成分というのは中性子成分以外の二次宇宙線のことで、一括してこのように呼んでいます。したがって、電離成分と中性子成分による空気の吸収線量率の合計値が、宇宙線による空気の吸収線量率ということになります。

 宇宙線による空気の吸収線量率の海洋表面からの高さによる変化を図2に示します。これは、『原子放射線の影響に関する国連科学委員会報告書』(1977年)から引用した図です。図から明らかなように、高さが高くなるほど、吸収線量率は大きくなります。もっとも、そうはいっても限りがあって、海洋表面から約2万メートルの高さを超えると、むしろ空気の吸収線量率は下がってくるようになります。その理由は、空気があまりに薄くなってくると、一次宇宙線と地球大気を構成する元素の原子核が衝突することによって生まれる二次宇宙線の量が減るからです。このことを示したのが図3です。中性子成分による空気の吸収線量率は、海洋表面からの高さが約2万メートルを超えるにつれて、どんどん下がっていきます。また、電離成分による空気の吸収線量率は、海洋表面からの高さが約2万メートルを超えると、ほぼ一定の値になるか下がる傾向にあるようです。

表6 宇宙線に起因する吸収線量率と線量当量率
高度
(キロメートル)
吸収線量率
(マイクログレイ/時)
線量当量率
(マイクロシーベルト/時)
4 0.14 0.20
6 0.33 0.51
8 0.84 1.35
10 1.75 2.88
12 3.01 4.93
14 4.62 7.56
16 5.92 9.70
18 7.09 11.64
20 7.72 12.75

 参考までに、宇宙線に起因する航空機乗務員の放射線被曝が問題になる、海洋表面から約2万メートル(約20キロメートル)までの高さにおける空気の吸収線量率と線量当量率を表6に示します。これは、『原子放射線の影響に関する国連科学委員会報告書』(1982年)から引用した表です。ちなみに、表6は、二つの緯度(43度と55度)および太陽活動の二つの時期(太陽活動極大期と同極小期)における宇宙線に起因する空気の線量率を平均した値です。

B空気の吸収線量率の緯度による変化
Fureming.gif (3500 バイト)  すでに図2から明らかなように、宇宙線(二次宇宙線)による空気の吸収線量率は、高度ばかりでなく緯度によっても変わります。ただし、ここでいう緯度というのは地理上の緯度のことではなく、地磁気上の緯度のことです。
 方位針(磁石の針)のS極とN極がいつでも南北方向を指すことから明らかように、地球全体は巨大な磁石であり、ちょうど棒磁石のN極を南に、S極を北に置いたときに生じるような磁場のあることが知られています。私には詳しいことはわかりませんが、流体による電気の流れが地球内部に存在することが地磁気の原因であると考えられているようです。それはともかく、地理上の極(地球の自転の極)と地磁気の極とは一致せず、少しずれていることが今日ではわかっています。その差はわずかで、たとえば東京から見ると真北から約6度ほど西にずれる程度に過ぎません。
 話が少しそれましたので元に戻しますが、宇宙線による空気の吸収線量率が緯度によって異なるのは、地球に磁場のあることが原因です。緯度が高くなるほど空気の吸収線量率が高くなるのは、次のような理由によります。
 すなわち、先ずは、高校の物理の授業で習った「フレミングの左手の法則」を思い出して下さい。「思い出せといったって何十年も前のことで思い出せるはずがないではないか!」という人のために復習をすると、電気を帯びた粒子が磁場のなかを通ると、力を受け続けて、その進路を曲げられてしまうのです。プラスの電気を帯びた粒子の流れの方向を「左手の中指」、磁力線の方向を「左手の人さし指」で表したとき、受ける力の方向が「左手の親指」に相当する、というのがフレミングの左手の法則です。一次宇宙線のほとんど大部分を占めるのは陽子をはじめとするプラスの電気を帯びた粒子ですから、まさにフレミングの左手の法則によって左手の親指の方向に力を受け、進路を曲げられることになります。

Jiryoku.gif (4652 バイト)  地球にあるこの磁場の影響によって、陽子などの電気を帯びた粒子のうちエネルギーの小さなものは磁場に捕まって永久的に閉じ込められてしまいます。こうして南北の磁極を結ぶ磁力線のまわりにドーナツ状にできた放射線量率の非常に強い領域が、海洋表面からの高さが約3600キロメートルと約2万キロメートルのところにピークのある「放射線帯」あるいは「ヴァン・アレン帯」と呼ばれているものです。低い方の放射線帯は内帯と呼ばれ、北緯30度から南緯30度の範囲に分布しています。また、高い方の放射線帯は外帯と呼ばれ、北緯60度から南緯60度の範囲に分布しているといいます。
 要するに、空気のほとんどない遠くにまで延びている地球の磁場によって、エネルギーの小さな一次宇宙線は進路を曲げられて地球の大気に到達できなくなってしまうのです。ある人の計算によれば、赤道上で磁力線に垂直に入射し得るためには、約1万5000メガエレクトロンボルト以上のエネルギーを持っていなければならないといいます。ところが、図5からわかるように、非常に緯度の高い極地では、一次宇宙線は磁力線にほとんど平行に入射することになり磁場の影響を受けにくいため、約100メガエレクトロンボルトぐらいのものでも地球の大気に到達し得ることになります。それ故、緯度が高くなるにつれて地球の大気に到達する一次宇宙線の量が増えるため、これに応じて二次宇宙線の量が増え、空気の吸収線量率も高くなるのです。これが、宇宙線(二次宇宙線)による空気の吸収線量率が緯度によって変わる理由です。

C空気の吸収線量率の太陽活動よる変化
Kokuten.gif (5734 バイト)  太陽表面に現れる暗く見える部分を「黒点」といいます。岩波書店の『理化学辞典』(第四版)によれば、直径100キロメートル程度から10万キロメートル以上に達する黒点もあるといいますから、黒点は「点といっても点ではない」などという禅問答のような存在だといえるかもしれません。なにしろ、私たちが生きているこの地球の直径でさえ約1万2700キロメートルに過ぎないのですから‥‥‥。それはともかく、黒点が暗く見えるのはまわりの温度と比べて黒点自身の温度が低いからですが、ただ単に温度が低いばかりではなく、黒点には非常に強烈な磁場のあることがわかっています。詳しいことは素人の私にはまったくわからないのですが、太陽活動が活発になると黒点の数が増え、逆に太陽活動が不活発になると黒点の数が減ることが今日ではわかっています。
 ところで、この太陽表面の黒点の数はかなり古くからチューリヒ天文台などで継続的に詳しく観測されています。私の手元にある『理科年表』(1992年)には、1700年から1990年までの黒点の数(正確にはウォルフ黒点数)の変化が実線で示されています。これを転載したのが図6です。上述の『理化学辞典』によれば、「黒点の寿命は数時間から数カ月以上にも及ぶが、半数は4日以下である」といいますから、先人科学者たちの執拗な観測には驚くばかりです。なまけものの私には、とても真似のできることではありません。
 図6からわかるように、黒点の数すなわち太陽活動は2〜3年のずれはあるものの、ほぼ11年を周期として規則的に変化しています。高度や緯度ばかりでなく、太陽活動の状態も宇宙線(二次宇宙線)の強さに影響を与えています。 ひとつは、太陽活動が活発になると確実に太陽宇宙線が増えるからです。太陽宇宙線が増えれば、当然のごとく太陽宇宙線に起因する二次宇宙線の強さが増えます。もうひとつは、太陽活動が活発になると強烈な磁場が黒点で生まれ、この強烈な磁場の影響によって銀河宇宙線の低エネルギーの陽子などが進路を曲げられるため、地球大気に降り注ぐ銀河宇宙線が減るからです。銀河宇宙線が減れば、当然のごとく銀河宇宙線に起因する二次宇宙線の強さが減ります。それでは、全体として太陽活動が活発になると二次宇宙線の強さはどうなるのかというと、太陽活動が活発になるにつれて二次宇宙線の強さの減ることがわかっています。したがって、太陽活動が活発になると宇宙線(二次宇宙線)による空気の吸収線量率が減ります。また、これとは反対に、太陽活動が不活発になると宇宙線(二次宇宙線)による空気の吸収線量率が増えます。
 図3には、こうした関係もまた示されていますので、じっくりと眺めてほしいと思います。


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