5 航空機乗務員の被曝線量はどのくらいになるの?

@航空機乗務員が被曝線量を測定することの意義

 航空機乗務員の宇宙線に起因する放射線被曝線量は、飛行高度、飛行緯度、飛行時間あるいは太陽活動の状態などによってかなり変わります。しかし、たとえばコンピュータなどを使って、平均的な太陽活動の状態における宇宙線(二次宇宙線)による線量当量の高度分布や緯度分布を計算で求めることのできる半実験式を実測値に合うようにあらかじめ作っておき、飛行記録(たとえば飛行経路、上昇時間、下降時間、水平飛行高度ならびに水平飛行時間など)を入力して自動的に被曝線量を算出することは決して難しいことではありません。日本でも放射線影響協会の岡野眞治先生(元理化学研究所)、東京大学医学部の甲斐倫明先生あるいは金沢大学理学部の小村和久先生らをはじめとする人びとが、こうした試みを行っています。
 しかし、航空機乗務員の宇宙線に起因する放射線被曝線量をコンピュータなどによって算出する試みは、主として宇宙線(二次宇宙線)による線量当量の高度分布や緯度分布を計算で求めることのできる半実験式の精度があまりよくないため、まだ少し信頼性に欠けるようです。岡野眞治先生からは、被曝線量の算出精度は「(国内線で)一応ひかえ目に20%としていますが±5%程度を目安にしています」、「外国航路については10数例の実測しかありませんので精度はわかりませんが20%はクリアできると思います」という返事をいただいているのですが、小村和久先生らは1992年に滋賀県大津市で行われた日本放射線影響学会で「計算値が100%あるいは200%違っていても驚かない」などと乱暴な発表しているくらいなのですから‥‥‥。
 20程度%ならまだしも、100%も違っていたら大変です。たとえば航空機乗務員の宇宙線に起因する放射線被曝線量が年間3ミリシーベルトと算出されたとしても、算出誤差が100%もあると、実際の線量は0〜6ミリシーベルトのあいだにあることになってしまうからです。こんな粗雑な算出精度ではどうしようもありません。
 そこで、これは私の考えでもあったわけですが、日本乗員組合連絡会議(以下、「日乗連」と略称する)では機長や副操縦士、航空機関士あるいは客室乗務員の方がたに携帯用の簡便な被曝線量計を装着してもらって実際に測定することを行っています。要するに、コンピュータなどによって算出することは前述の専門家に任せて、日乗連は実測値を蓄積しようとしたわけです。実は、算出の信頼性が少し欠けるにもかかわらず専門家がコンピュータなどによる計算にすすみがちなのは、それなりの理由があります。
 ひとつの理由は、コンピュータなどによって被曝線量を算出するプログラムを一度完成させておけば、たとえ信頼性が少し欠けようと、あらゆる路線に関する被曝線量をたちどころにして求めることができるようになるからです。もうひとつの理由は、実際に被曝線量を測定しようとすると、とても大変だからです。たとえば、成田ーロンドン路線を実測する場合を考えます。先ず、電離成分と中性子成分による線量を測定する測定器がおのおの必要です。また、何人で測定するかわかりませんが、とにかく測定をする人たちが必要です。また、その人たちの往復の搭乗券が必要です。場合によっては、測定器を置いておくスペースを確保するために、専用の座席を用意する必要があるかもしれません。往路の測定を終えてロンドンに着いてから直ちに復路の測定をするのは体力的に無理ですから、ホテルに泊まって少なくても1日は休息をとらなければならないでしょう。それから復路の測定を行うことになります。測定器の購入費を別にしても、1往復の測定に要する費用はたぶん数十万円を要するでしょう。1往復では測定の信頼性に乏しいので何往復か測定を行ったら、それこそ百数十万円あるいは数百万円はすぐになくなってしまいます。成田ーロンドン路線以外も測定しようと思ったら、ほとんど絶望的です。数百万円あるいは数千万円という助成金でももらわない限りとてもできません。実は、これこそが算出の信頼性が少し欠けるにもかかわらず、専門家がコンピュータなどによる計算にすすみがちな大きな理由なのです。
 この点、日乗連ならば、航空機乗務員のなかに測定に協力していただける人たちを募って、その人たちに測定を依頼することができます。放射線測定という点では素人ですし何しろ勤務中ですから専門家が使うような厳密で大がかりな測定器を使うことはできないでしょうが、携帯用の簡便な被曝線量計を装着してもらって、比較的容易に測定することができます。また、往復搭乗券などを購入する必要がないので、協力さえ得られるのであれば、多数回の測定ができます。
 測定に協力してくれる人たちを募ったり、あるいは実際に測定をするなかで、航空機乗務員の宇宙線に起因する放射線被曝問題に対する関心の輪が広がり、認識も深まってくるはずです。これこそが日乗連のすすむ道だと私は思っています。ただし、日乗連は航空機乗務員の労働組合の集まりですから、測定にばかり熱中してはいられません。本来なら、航空機乗務員がどのような労働環境で働いているのか調査しなければならないのは雇用者である航空会社です。したがって、航空会社がそうした調査を誠実に行うよう早急に要求していくことが必要です。常にこのことを忘れてはいけないと思います。その上で、日本航空の宇宙放射線研究会の例からわかるように航空会社が不誠実な対応をすることが十分に予想されるので、厳密で大がかりな測定器と比較すれば測定精度は劣るけれども、とりあえず日乗連としても携帯用の簡便な被曝線量計で被曝線量を把握しておくことが必要です。日乗連の行っている測定は以上のようなものであると思っています。

A実測値の例(ある航空機関士の1カ月間の被曝線量)

 表7は、日本航空の航空機関士であるSさんの1994年6月の調査記録です。測定に協力していただいている人たちのうち何人かは、被曝線量計(アロカ鰍フ半導体式電子ポケット線量計PDM−101)を搭乗のたびに常に装着して測定をしています。この被曝線量計は重さが約60グラム、幅30×長さ145×厚さ12ミリメートルで、胸ポケットにクリップで容易に着けることができるものです。指示値もデジタル表示ですから、被曝線量を非常に簡単に読み取ることができます。「航空機の計器に影響を与えることはないのか?」といった質問を初めは受けたりしたこともありますが、そんなことはまったくありません。
 これは私自身の経験なのですが、1990年にアエロフロートの航空機のなかで、同じ半導体式電子ポケット線量計のPDM−102の指示値が突如として何桁も急激に上昇し振り切れてしまったことがあります。宇宙線によるものでないことはすぐにわかりましたが、そのときには原因がわかりませんでした。あとでマイクロ波や電波などの発生している近くでPDM−102の指示値が誤動作することがわかり、アルミホイルで線量計を包んだところ、指示値はまったく誤動作しないことがわかりました。製造元のアロカ鰍ノそのことを教えてあげたことがあります。それが原因かどうかは知りませんが、翌年の1991年頃だったと思いますが環境放射線測定用として販売されたのが、薄い金属で線量計全体を覆って電磁シールドしたPDM−101です。
 話を元に戻しますが、表7に示したような測定ができるというのも日乗連の強みです。大学にいる研究者にはとても真似のできない測定で、大変に貴重なデータだと思います。

表7 ある航空機関士の1カ月間の被曝線量(1994年6月)
乗務路線 ブロックタイム 被曝線量(μSv)
成 田 → シカゴ 11時間06分 16.18
シカゴ → 成 田 12 〃 43〃 15.67
10 羽 田 → 大 阪 1 〃 02〃 0.19
10 大 阪 → 羽 田 1 〃 06〃 0.17
10 羽 田 → 沖 縄 2 〃 36〃 0.95
11 沖 縄 → 羽 田 2 〃 13〃 0.95
11 羽 田 → 千 歳 1 〃 32〃 0.54
11 千 歳 → 羽 田 1 〃 32〃 0.48
18 成 田 → パ リ 12 〃 32〃 13.74
20 パ リ → 成 田 11 〃 00〃 12.45
25 成 田 → 名古屋 1 〃 14〃 0.18
26 名古屋 →ホノルル 7 〃 27〃 6.89
27 ホノルル→ 名古屋 8 〃 00〃 7.57
29 名古屋 → 成 田 1 〃 12〃 0.14

 航空機関士のSさんの場合、1994年6月の1カ月間の被曝線量の合計値(電離成分のみ)は76.1マイクロシーベルトになります。なお、PDM−101は電離成分による被曝線量を測定するものであって、中性子成分による被曝線量の測定はできません。また、電離成分による被曝線量も実際の値より少し低めの値になることがわかっています。岡野眞治先生によれば、国内線の場合、PDM−101の測定値に2.7倍すると実際の値になるといいます。岡野眞治先生は、国際線の場合についてはまだ十分に調査していないようですので、とりあえず国際線の場合もPDM−101の測定値に2.7倍すると実際の値になると仮定すると、Sさんの6月の被曝線量は約206マイクロシーベルトになります。仮にこの調子で1年間勤務すると、Sさんの被曝線量は約2.4ミリシーベルトになります。
 以上のように、たとえ厳密で大がかりな測定器を使わなかったとしても、こうした測定器との換算係数さえ正しく求めておけば、それなりに正確な被曝線量を求めることはできます。前にも述べたことですが、ある特定の航空機乗務員の被曝線量をSさんのような形で測定することは大学にいる研究者にはとても真似のできない測定であり、日乗連の特徴を活かした非常に貴重なデータになると思います。なお、機長や副操縦士は搭乗する路線がほぼ定まっているそうですが、搭乗する路線が特に定まっていない客室乗務員の場合にも、こういう形での測定が宇宙線に起因する自分たちの被曝線量を把握する上で大変に有効であると思います。現に、日本航空客室乗務員組合では熱ルミネセンス線量計(TLD)やPDM−101を使い、滋賀医科大学の渡辺眞也先生の援助を得て、こうした測定を行っています。協力していただけるという人は、ぜひ日乗連の事務所に連絡していただきたいと思います。

B実測値の例(リレー形式で測定したある路線の被曝線量)
 表8は、1994年3月中旬から5月中旬までの約2カ月間、成田ーニューヨーク路線を測定した例です。この路線に搭乗する人がひとつのPDM−101を使って測定を行ったのち、次に搭乗する人にPDM−101を手渡して再び測定を繰り返すという測定の仕方、すなわち、まるでリレーレースのバトンのように携帯用の被曝線量計を次つぎに測定者に手渡して測定を繰り返した例です。口でいうのは簡単ですが、このリレー形式の測定を計画した人も、また計画に参加して実際に測定していただいた人たちも見事で、すばらしい連携プレーに感心しています。
 表8には全部で10往復分の測定結果が示されていますが、同じ被曝線量計を使って測定しているにもかかわらず、毎回測定値が少しずつ違っています。もちろん被曝線量計自身の測定誤差(±15%以内)があるのですが、測定結果のバラツキはこれを上回るものもあります。詳しいことは知りませんが、たとえ同じ路線であっても、気象条件などによって飛行経路や飛行時間は飛行のたびに少しずつ異なるそうですから、ある意味で当然の結果なのだと思っています。このように同一の路線とはいえ飛行時の測定環境は必ずしも同一ではないので、測定値

表8 リレー形式で測定した成田ーニューヨーク路線の被曝線量
月/日 乗務路線 ブロックタイム 被曝線量(μSv)
3/14 成 田→ニューヨーク 11時間43分 15.59
3/17 ニューヨーク→成 田 13 〃 49〃 18.64
3/18 成 田→ニューヨーク 12 〃 09〃 21.52
3/21 ニューヨーク→成 田 14 〃 23〃 16.07
3/23 成 田→ニューヨーク 12 〃 08〃 14.37
3/26 ニューヨーク→成 田 13 〃 51〃 12.13
3/27 成 田→ニューヨーク 11 〃 58〃 14.27
3/30 ニューヨーク→成 田 14 〃 09〃 16.16
4/05 成 田→ニューヨーク 12 〃 50〃 18.29
4/07 ニューヨーク→成 田 13 〃 50〃 19.56
4/11 成 田→ニューヨーク 12 〃 06〃 16.10
4/13 ニューヨーク→成 田 13 〃 36〃 19.02
4/28 成 田→ニューヨーク 12 〃 22〃 15.68
4/30 ニューヨーク→成 田 13 〃 11〃 16.72
5/05 成 田→ニューヨーク 12 〃 15〃 17.08
5/07 ニューヨーク→成 田 14 〃 09〃 18.07
5/14 成 田→ニューヨーク 12 〃 19〃 14.92
5/16 ニューヨーク→成 田 13 〃 49〃 20.84
5/18 成 田→ニューヨーク 12 〃 01〃 16.02
5/20 ニューヨーク→成 田 13 〃 20〃 18.82
成 田→ニューヨーク間の平均値 12 〃 11〃 16.38
ニューヨーク→成 田間の平均値 13 〃 49〃 17.60
往復平均値 26 〃 00〃 33.98

を平均するのは厳密な意味で正しくないのかも知れません。しかし、ある路線の被曝線量を大雑把に把握するという意味において、平均値を求めることはそれなりに有益であると思います。
 表8には平均値も一緒に示してあります。成田ーニューヨーク路線の被曝線量の往復平均値は33.98マイクロシーベルトですから、前述のように2.7倍すると実際の被曝線量が求められるとすれば、約92マイクロシーベルトになります。なお、東京大学医学部の甲斐倫明先生らによる成田ーニューヨーク路線の往復被曝線量の計算値は約86マイクロシーベルトで、ほぼ一致しています。前述したことですが、計算値の算出精度を考えるとほぼ一致しているからといって単純に喜ぶわけにはいきませんが、実際の被曝線量の値に「当たらずといえども遠からず」といったところなのではないでしょうか。
 さらに、年間800〜900時間搭乗するとして宇宙線に起因する被曝線量を求めると、次のようになります。
 33.98(μSv)÷26(時間)×2.7×800〜900(時間/年)=2823〜3176(μSv/年)
 すなわち、成田ーニューヨーク路線のみを搭乗する航空機乗務員の年間被曝線量は約2.8〜3.2ミリシーベルトになります。前述の航空機関士のSさんの年間被曝線量の予測値が約2.4ミリシーベルトでしたから、これよりは確実に多くなります。Sさんは国際線の他に国内線も搭乗していますから、当然の結果といえます。
 なかなか大変ですが、このようにリレー形式でいろいろな路線の測定を行えば、路線ごとの被曝線量が出てきますし、機長や副操縦士など特定の路線のみを搭乗する人たちの年間被曝線量を求めることができますので、協力していただけるという人は、ぜひ日乗連の事務所に連絡していただきたいと思います。よろしくお願いします。
 成田ーニューヨーク路線以外にも日乗連がこれまでにリレー形式で行ってきた路線の平均値から求めた往復被曝線量を、表9に整理しておきます。被曝線量の値のうち矢印の左側はPDM−101の実測値、この実測値に2.7倍して求めた値が矢印の右側です。表9のなかには、成田ーシカゴ路線や成田ーフランクフルト路線のように成田ーニューヨーク路線に匹敵する測定回数を蓄積している路線もありますが、まだ1〜2回しか測定をしていない路線もあります。今後、まだ測定回数の不十分な路線での測定を蓄積していくことが、日乗連としては必要であると思います。

表9 リレー形式で測定した各路線の被曝線量
乗務路線 ブロックタイム 被曝線量 (μSv)
成 田ーニューヨーク 26時間00分 33.98→91.7
成 田ーワシントン 26 〃 36〃 28.34→76.5
成 田ーロサンゼルス 21 〃 20〃 21.27 →57.4
成 田ーシカゴ 24 〃 09〃 28.15→76.1
成 田ーパ リ 24 〃 03〃 26.43→71.4
成 田ーアムステルダム 23 〃 41〃 29.83→80.5
成 田ーロンドン 24 〃 03〃 29.06→78.5
成 田ーフランクフルト 23 〃 37〃 28.12→75.9
成 田ーシドニー 18 〃 49〃 11.54→31.2
成 田ーホノルル 15 〃 11〃 11.78→31.8
名古屋ーホノルル 15 〃 54〃 14.04→37.9
大 阪ーホノルル 15 〃 23〃 11.49→31.0
成 田ー名古屋 2 〃 26〃 0.32→0.86
羽 田ー大 阪 2 〃 03〃 0.41→1.11
羽 田ー福 岡 3 〃 30〃 1.10→2.97
羽 田ー千 歳 3 〃 01〃 1.01→2.73
羽 田ー沖 縄 4 〃 49〃 1.90→5.13

 参考までに甲斐倫明先生らによる往復被曝線量の計算値を紹介すると、次のとおりです。

      成 田ーロサンゼルス路線‥‥‥‥54.1マイクロシーベルト
   成 田ーシカゴ路線‥‥‥‥‥‥‥75.1マイクロシーベルト
   成 田ーロンドン路線‥‥‥‥‥‥76.1マイクロシーベルト
   成 田ーシドニー路線‥‥‥‥‥‥23.8マイクロシーベルト
   成 田ーホノルル路線‥‥‥‥‥‥27.5マイクロシーベルト

 なお、電離成分の測定に関することでは、日本航空の宇宙放射線研究会が使用していた携帯用ガンマ線スペクトロメータ(アロカ鰍フJSM−102)を私の研究室で購入することになりましたので、これを使えばPDM−101以外の情報が得られるようになると思います。また、中性子成分の測定に関することでは、2〜3年ほど前、日乗連のみなさんにバブルディテクターを10本ほど購入してもらい測定したことがありました。バブルディテクターの測定に協力していただいた方はご存じだと思いますが、バブルディテクターは安価で測定も簡単なのですが、(1) 線量を算出するために必要なバブルを数える作業がめんどうで誤差が大きいこと、(2) 再現性が悪く信頼性に欠けること、(3) 検出器の寿命が短いため何回も再購入する必要があること、という理由で、現在はバブルディテクターを使っていません。それ以来、中性子成分による被曝線量の測定を行っていなかったのですが、私の研究室で中性子サーベイメータ(アロカ鰍フTPS−451S)も購入することになりましたので、今年(1994年)の秋には使えるようになると思います。もっとも、前述したように、PDM−101を使って測定した値に換算係数をかけ算しさえすれば実際の被曝線量を求めることができますから、本数の多いPDM−101を使った測定が中心である点にまったく変わりはありません。

C放射線被曝による致死的なガンの発生確率
 すでに表5に示したように、国際放射線防護委員会(ICRP)の1990年勧告によれば、1シーベルトの放射線被曝をしたときに生涯のあいだに生じる致死的なガンの発生確率は0.04です。したがって、航空機乗務員が宇宙線によって受ける1年間の被曝線量を2〜3ミリシーベルトとすると、その航空機乗務員に全生涯をつうじて発生するであろう致死的なガンの発生確率は、次のようになります。
2〜3(mSv)×0.001(Sv/mSv)×0.04(Sv^−1)=0.00008〜0.00012
 すなわち、10万分の8〜10万分の12ほどの確率になります。ただし、これは1年間の乗務に起因する値ですから、仮に20年間ものあいだ同じ被曝線量で浴び続けるとすれば、全生涯をつうじて発生するであろう致死的なガンの発生確率は次のようになります。
  0.00008〜0.00012(y^−1)×20(y)=0.0016〜0.0024
 すなわち、1万分の16〜1万分の24ほどの確率になります。この値の意味するところは、1万人の航空機乗務員がいれば、平均してそのうち16〜24人がガンになって死亡するかも知れないということです。
 航空機乗務員の宇宙線に起因する致死的なガンの発生確率が1万分の16〜1万分の24ほどであるといわれて、実際に航空機乗務員であるみなさんはどう思うでしょうか。「航空機乗務員は危険な職業だとわかったので転職したい」と思うでしょうか、それとも「大したことはなさそうなので安心した」と思うでしょうか。あえて両極端の感じ方を述べましたが、どのように感じようと、みなさんの自由であると私は思います。
 ただ、「無用な放射線被曝はできるだけ避ける」、「避けることのできない放射線被曝は、被曝線量をできるだけ低くする」という放射線防護の原則的立場を土台にすえるならば、いやしくも医科大学の放射線科教授とあろうものが「航空乗務員が被曝する線量はホルミシス現象が問題となる線量域であることを御参考までに申し添えておきます」といったことを最後に述べて終わるような講演をしてはならないと思います。


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