第四章 破壊過程についての考察

  1. 破壊の始まりは尾翼か後部圧力隔壁か

     事故調の報告書は修理ミスから後部圧力隔壁の破壊、垂直尾翼の破壊、全油圧系統の喪失、操縦不能という筋書きになっている。
     急減圧の存在は、改めて公開実験などでの裏付けが必要である。しかし、これを拒否している以上、急減圧はその存在が証明されていない。
     後部圧力隔壁から噴出した客室内の空気による垂直尾翼の損壊でなければ、垂直尾翼を破壊した原因は何であったのか検討してみた。
     我々はCVRも聞かされず、残骸も自由に見ることは出来ず、FDRのデータも事故調の提供する範囲でしか知り得ない。従って破壊過程を決定的に明らかにすることは出来ないが、乗員や整備士や客室乗務員ら日常運航に携わるものが理解でき納得できる破壊過程についての考察を試みた。事故調の報告書のように現場のものが理解、納得できない分析では安全性向上に何の役にも立たない。

  2. 異常発生とその後の経過を考える

     異常発生時のFDRのデータをよく見ると、その直前の18時24分35秒の飛行状態は

    CAS(補正計器速度)=300.5kt 緩やかに加速中 ALT(気圧高度)  =23950ft
      PCH(縦揺れ角)  =2.5° HSTB(縦トリム) =4〜5UNIT EPR(=エンジン推力)=1.350付近で緩やかに減少中
      

     自動操縦CMD1で飛行中であった。
     乗員の目から見れば、この状態は巡航高度に達して水平飛行になったばかりの段階でエンジン推力を減少させつつあるように見える(資料31)。

    Data31.gif (30490 バイト)

    (資料31 DFDRの拡大図を重ねたものに、CVRの音を重ねたもの)

     この状態から異常発生時に一番最初に見られた変化は尾部での低周波振動とそれに続く前後方向の加速度の増加である(資料24)。
     事故調ではFDR上で水平尾翼の角度を示すデータが35秒に100ユニットに振り切ったのが最初の変化であるといっていたが、このデータは1秒間に1回記録されているため、35秒から36秒の間に変化したもので、35秒には変化は生じていない(資料33)。
     つづいて、操縦かんが中立位置から1秒間で1度機首上げ側に動き、次の2秒間で最大限に近い機首下げ7.5度まで下げられている。
     続いて前後方向の加速度が1秒間に4回記録されるデータのうち1つだけが+0.5Gの前方への加速度を示している。  続いて横方向の加速度が最初ひとつのデータだけが(1秒に4個のデータのうち一個だけ)左に0.2Gに振れ、続いてこまかく振動している。この振動は、36秒から約1秒間は2ヘルツの振動数を示している。横方向加速度は1秒4回の割でデータが記録されているので、横方向に2の倍数・・・4、8、12、16・・・ヘルツの振動があった可能性を示している。
     これはボイスレコーダーに記録されていた振動、8〜16ヘルツと一致し、この振動が横方向であったことを示している。これは上部方向舵のフラッター周期12〜13ヘルツと一致している。また方向舵の操作量はこの振動と全く対応していない。これらの事実から、上部方向舵のフラッターの発生が考えられる。
     注目すべき変化として、続いて垂直方向のGの記録が1/2秒間マイナス側に0.25G程度加わって0.75Gになった後、1.9Gまで跳ね上がっている。その差1.15G程度の変化で、次の2秒間で0.25G近くまで低下し,1.6G以上のマイナスのGの変化を受けている。
     異常事態の発生直後に機体が受けた加速度の特徴は、横方向の振動と上下方向の加速度の大きな変化である。
     300ノットで飛行中に1秒間に約5°という極めて急激な機首上げが見られる。これが大きな垂直Gの原因になっていることは明らかであり、では何故このような機首上げが生じたかを検討しなければならない。

     機首上げが生じるには、エレベーター(昇降舵)を機首上げ側に動かすか、水平尾翼全体(ピッチ・トリム)が機首上げに動く、舵以外に尾部を直接押し下げる力あるいは機首を直接押し上げる力が働くなどの原因が考えられる。異常発生時には自動操縦が使用されており、FDRのデータにはエレベーターが作動した形跡が見られない。水平尾翼のトリムは100ユニットに跳ね上がっているが、これはその速度から見て、実際にスタビライザーが動いたとは見られない。客室の空気が垂直尾翼の先端から噴出したために機首上げの力が加わったことは、客室の中で空気の流れがなかったことから否定されている。

     横方向の振動に続いて機首を1秒間に数度も跳ね上げる、あるいは尾部を下に押し下げる大きな力は、300ノットで飛行中であることを考えると、上部方向舵が振動(フラッター)を起こし破壊し、その過程で大きな空気抵抗となればばこの程度の力は生じる可能性が十分に考えられる。

    Data32.gif (88992 バイト)

    (資料32 下部方向舵上面の傷 1/3頁程度)

     海上で揚収された下側方向舵の上面についていた、上側方向舵とのあたり傷(資料32)及び事故以前にも方向舵を動かす力が働くパワーコントロール・パッケイジの垂直尾翼への取り付け部分のストレス・コロージョンによるひび割れが報告されていたことなどから、上部方向舵のこの部分に破壊が起発生したことも推定され、あるいは垂直尾翼の機体への取付ボルトの異常、上部方向舵のフラッターを防止するための8個のマスバランス(バランスをとるための錘)の損傷・脱落、等も考えられる。その結果方向舵にフラッターが生じ、大きな抵抗を垂直尾翼上部に発生させ、垂直尾翼の上部を後方に引っ張る結果となり、機体に機首上げの力を加え、その後破壊・飛散したした。破壊の過程で上部方向舵が空気抵抗により垂直尾翼のトルクボックスを後方に引っ張り、それを倒壊させた事が推定される。
     この時に機体に加えられた力は、機体の重心から見ると機首上げのモーメントとなり、FDR上では機首上げ角2.5゜から1秒間で7.2゜まで跳ね上がっている。それに伴って上下方向の加速度(垂直G)が約1.9Gに増加している。1.9Gはたまに発生するハートランディングでもほとんど見られないほど激しい突き上げるような加速度である。次の2秒間に0.26Gまで急激に下がっている。今度は浮き上がるようなGの変化である。後半のGの減少は、突然の機首上げに対して、オートパイロットが大きく機首下げの操舵をし、次の瞬間には、方向舵が飛散し機首上げモーメントがなくなり過剰修正となり機首が急激に押し下げられたものと見ることが出来る。

     上部方向舵が破壊飛散する過程で、下部方向舵の上面に上部方向舵のゴムシールによる強い圧着痕を残したと見られる。この圧着痕については事故調は「その発生の経緯を明らかに出来なかった。」としている。
     方向舵の破壊の過程で垂直尾翼のトルクボックスを破壊した。同時に4系統の油圧の配管を破壊した。垂直尾翼を支えていた胴体のフレームを破壊し、R5ドアの窓付近を破壊した。これが緩やかな減圧の原因の一つとなった。急激な機首上げに伴う2G程度の加速度と油圧の異常により車輪のティルトに異常を来たし、離陸警報を作動させた。同時に与圧装置のアウトフローバルブを開放する方向に、一時的に動かした。その結果一時的に減圧を生じさせる一因となった。
     大きな上下方向のGの変化によって酸素マスクが落下し、減圧による酸素マスクの落下でないためにプレレコーデッド・アナウンスは作動しなかった。それを見たパーサーが自分でアナウンスを開始した。このような推定は合理的で矛盾がなく、乗員には理解しやすい。

  3. CVRに記録されていた低周波振動とその始まった時刻

     報告書の付録167頁に同付録の173頁の付図ー7のグラフの分析として、いわゆる「ドーン」という大きな音(18時24分35.5〜36.6秒)に先立って、「ある周波数帯においてこれより前の18時24分35.3〜35.4秒ごろ既に始まっている兆候が認められた。」と明記されている。明らかに、ドーンという音よりも0.1〜0.3秒前から、8ヘルツ〜32ヘルツの間の振動が発生していることになる(資料24、33)。

    Data33.gif (34103 バイト)

    (資料33 報告書付録9 173頁 全帯域、8ヘルツ、16ヘルツ)

     この振動について事故調はこの最初の部分の音は「本体の振動に起因すると思われる大きな周波数変動」と推定し、その原因を「CVRの本体の設置場所の近くで防振装置によって吸収できないほどの著しい機体の振動や激しい空気流が発生したことによるものと推定される」(報告書94頁)と推定している。
     しかし、これまでに明らかなとおり、客室内に「激しい空気の流れ」は見られないので、「著しい機体の振動」しか残らない。もしも、振動の原因が空気の流れであれば、「ドーン」の後も空気の流れは存在したはずであり、振動も続いていなければならない。振動は、0.6秒間しか連続していない。空気の流れもその間しか存在しなかったことになる。この振動は、FDRに記録されていた、横方向の加速度の振動と一致する2の倍数の振動を記録している。したがって、この振動は機体の横ゆれによるもので、その原因は方向舵、垂直尾翼のフラッターが考えられる。
     「CVRに記録されている大きな周波数変動と最初の音とが同一発生源によるものと仮定すると、両者の時間差と音速から勘案してその発生源はエリアマイクからおよそ数十メートル離れたところになるはずであり、これはCVR本体とエリアマイクの設置位置との距離54メートルに矛盾するものではない。」と事故調は説明している。しかし、「ドーン」という音も地上で聞かれたほどの大きな振動であり、地上の微気圧振動計にまで記録を残した音が音源の近くにあった、CVRに直接影響が出ていないことは考えられない。したがって低い周波数の振動が、「ドーン」に先だって発生していたと考える方が自然ではないだろうか?
     エリアマイクの周波数特性は90ヘルツがほぼ下限であり、それ以下の振動数はマイクを通しては記録されないと見られている。従って32ヘルツ以下の振動はマイクから入力されたものでない。CVR本体に大きな振動を与えた場合に、テープに「飛び」が生じないで、その振動が音と同じように、テープに波形として記録されるメカニズムに疑問がないわけではないが、既に述べた通り、急減圧がなかったことは明白であり、この低い周波数の振動が空気の流れによるものでない。
     この十数ヘルツという振動は方向舵のフラッター振動数に近い値であり、事故調の推定でも、震動源はCVR本体に近い部分であるとされており、方向舵のフラッターが「ドーン」に先だって生じその直後に垂直尾翼が倒壊したときに「ドーン」が記録されたことを強く推定させるものとなっている。

  4. 方向舵フラッターについての考察

     方向舵などの舵面のフラッターは、「舵面の剛性や重量配分が原因となって起こる自励振動によるものと、主翼のねじれと補助翼、垂直尾翼のねじれと方向舵、水平尾翼と昇降舵等の間の連成(相互に関連しあう)によって発生する振動で、一度発生すると振幅が増大し構造破壊を招く危険性がある。」と一般に言われている。
     この危険なフラッターを防止するために、

    1. 方向舵ならば垂直尾翼と方向舵の相対的な運動が生じないように両方の剛 性を高める。ヒンジなど操舵機構にガタが、緩みが生じないようにする。
    2. 舵面の重心をヒンジの軸よりも前方にする(そのためにヒンジの前方に錘 「マスバランス」をつける)。
    3. 操縦系統・機構の剛性を高めて遊びとゆるみをなくす。
    4. フラッターを抑制する機構を装備する(油圧で操舵し、油圧が失われない ようにする)。

     等の対策が行われている。

     ボーイング社ではB−747の方向舵についてもちろんフラッターに関するテストを行っている。B−747のような油圧による操舵をしている場合には油圧が正常に作動している場合にはフラッターは発生しにくい。
     ボーイング社でのテスト内容はテストは

    1. 通常の程度の柔軟性(フレキシビリティー)を持った胴体に約80%のペイロードを搭載した状態で、重心位置は27.8%平均翼弦(MAC)。
    2. 水平尾翼と主翼は固定しているもの(リジット)と想定。
    3. 翼内のタンクはすべて満タンとしセンタータンクは空の状態。

     この状態で、方向舵の振動周波数、方向舵の重心位置とヒンジラインとの関係、空力的ヒンジラインまわりのモーメント、方向舵のねじれ振動周期、垂直尾翼の曲げと引っ張り剛性、胴体剛性等を、一系統の油圧喪失、両系統の油圧喪失、マスバランスの損傷、油圧作動部とその取付部の損傷の2種類の構造破壊と一系統の油圧喪失の4条件の下で調査するためにテストされている。
     その結果、方向舵の振動周波数は12〜13ヘルツと算定されている。特に上部方向舵だけはマスバランスを使用してヒンジと重心位置の関係のバランスを維持している。
     このテストの範囲では確かにフラッターは減衰することが確認されているかもしれないが、油圧作動部の破壊は他の部分の破壊、例えばヒンジ部分の破壊を誘発する可能性も低くない。また機体の老朽化によって胴体の剛性の低下や、垂直尾翼の胴体への取付ボルトの破損、ゆるみ、方向舵自体の剛性の低下、などと競合した場合のフラッターの発生については調査されていない。
     この事故機の機体では、事故前に上下の方向舵のずれが指摘されており方向舵自体、ヒンジ、操舵系統等に剛性の低下が見られていた可能性が高い。

  5. −400型機では上部方向舵を補強

     B−747シリーズの最新型である−400シリーズでは、方向舵の舵角が6.5度大きくった(25度から31.5度に変更)ためもあるが油圧の作動筒(アクチエイティング・シリンダー)が1本独立して増加され3本になり、油圧による力を受ける部分のリブ(RIB)が補強され、さらに中央部に桁が一本追加されている。その上、上部方向舵のマスバランスが取り外されている。
     下部方向舵については、アクチエイティング・シリンダーの増設はなされていない。舵角の増加が理由ならば下部方向舵にも補強が必要になるはずである。上部方向舵を補強する必要性があったものと見られる。この補強はかなり大きな設計変更であり、方向舵の剛性が高められ、油圧の作動筒の全体としての強度が高められ、一本の作動筒とその関連部分の破壊だけでは、致命的なフラッターの発生を押さえ、操舵不能に陥らないように変更されたと見られる。
     この事実は多くの人から、123便事故に対する対策ではないかと見られている。  このような破壊過程に関する推定は、一つの推定ではあるが、多くの事実を矛盾なく説明でき、航空関係者には理解しやすく、納得出来るものである。
     これはあくまでも事故調の報告書に示された「事実」とその他出版物に公表された情報、及び乗員らが持っている知識と経験、情報に基づいて推定したもので、乗員や航空関係の現場に携わる者らにとってはある程度理解し納得できるものとなっている。さらにCVRや残骸が公表され検証することが出来れば、より一層真実に近づくことが可能となるであろう。


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