第2部 事故調査の現状
■事故調査は事象の鎖を逆にたどる

航空会社が行う安全教育などで、「事故に発展する事象の鎖を断ち切ることが事故防止につながる」「航空機事故の原因となるものは、設計から製造、整備、運航などいろいろな段階で存在し、発生する」などと教えられます。その際、 以下のような図がよく出て来ます。
事故というのは、設計から始まる各段階での不安全要素が、図に示された「不可避点」に至るまでの各段階でのチェックをくぐり抜け、不可避点に到達した場合に発生すると教えられています。その不可避点に関わるのが、通常は乗務員です。
運航乗務員は不可避点の一歩手前で、何とか事故を回避するために努力しています。これは実際にあった事例ですが、飛行機の重量を計算間違いで、実際の重量よりも40000ポンドも軽く計算してしまいました。この様なミスは乗務員には発見不可能でした。誤りに気づかないまま離陸を開始し、機首を上げる速度(VR)に達し機首の引き起こしを始めましたが、
機体はなかなか浮揚せず、すでに決心速度(V1)を過ぎているため離陸を中止せず、滑走路の端まで走り、ぎりぎりのところで浮揚しました。一歩間違えば、大惨事であったことは確かです。
もしもこれが事故になってしまったとすると、事故調査のやり方をどのようにすれば、真の事故原因を究明出来るでしょうか。
当然、最後の事象を解明し、そこから、なぜその事象は避けられなかっ
たのか、次々とさかのぼることによって、最初の事象にたどり着き、それを排除することによって同種事故の再発を防止することが出来ます。ところが、この「事象のさかのぼり」は意外に難しく、不可避点からさかのぼらなければ、すべて「乗員のミス」になってしまいます。
この重量の間違いによるインシデント(事故に至らなかった不安全事象)では、
搭載重量の記載を誤ったのか、
搭載重量をウエイト・アンド・バランス表を作成するときに書き誤ったものか、
究明できませんでした。
その理由は関係者が口をつぐんでしまったからです。
口を閉ざした理由は、 処分を恐れ、
お互いにかばいあったことにあったと見られています。
■責任追及は事実を隠す
Q;あなたが事故になるかもしれないような、ミスを犯したとします。
直ぐにためらうことなく、上司 に報告できますか?
「ミスを報告したら、懲戒処分を受けるのではないか」、「昇級昇格に
影響するのではないか」と心 配したりしませんか?
正直に報告したら刑事責任を問われるとしたら、かなりの勇気を出さ
ないと報告することは難しいと思います。このような心理は、政府機関、
航空機メーカー、航空会社なども基本的には同じです。これらは責任追及や損害賠償などをおそれて事実隠しをする方向に動きます。
ここに事故に関係した事実隠しをする動機が見られます。隠されてしまう事実や情報は、本当の事故原因を明らかにすることが出来る、最も重要なものです。
HIV汚染血液製剤事件、高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故のビデオ隠し、そして日航123便事故の急減圧実験の結果隠しなども、その類のものです。
このように日本では、重大な事故ほど、真実の情報を得ることがきわめて困難になっています。事実が明らかにならないと、「事象の鎖」を正しくたどることは出来ません。つまり「真の事故原因は解明されません」。
むしろ、これまで重大な事故については、真の事故原因が明らかにされたことがないと言っても過言ではないのが現実です。
■日航123便事故の不可避点は操縦不能、それと急減圧とはつながらない
日航123便の場合、墜落を避けられなくなったのは、操縦不能になった時点です。操縦不能になった一つ前の事象は、四つの油圧系統すべてが破壊されたことです。さらにその前の事象が垂直尾翼の破壊です。ここまでは正しく辿られていると見られています。
ところが、事故調は垂直尾翼を破壊したエネルギー源を、後部圧力隔
壁の破壊による客室空気の噴出に求めています。そこから先がつながっていないのです。
客室の空気が噴出すれば、当然急減圧になり、気温の低下、客室高度警報の作動などが確認されなければならないのですが、その事実がない。
客室警報は1秒だけで停止している。その上、乗員は減圧症にも、低酸素症にもなっていない。
事故調は、その矛盾を埋めるために、都合の悪いことは「その理由を明らかに出来なかった」と逃げ、「耳はエレベーターで経験するような、軽く詰まった程度」という生存者の証言は無視、毎分約300000ftもの減圧でも減圧症にはならない証拠を作るために、急減圧実験の前には被験
者に減圧症の予防処置を行い、実験中に酸素マスクを使用したことさえも隠さざるを得なくなったのです。
■事象は正しく遡れたが、犯人作りをした花巻事故
一方、花巻事故では、ハードランディングという最終事象から、その一つ前の事象は低高度での降下率の増大であることは当然です。ところが事故調はその前の事象は風の影響ではなく「失速」であるとしていました。しかし、失速速度より接地したときの速度が多いことに気づき、今度はウインドシヤーがその前の事象であると改めました。そこまではよいのですが、事故調はその前の事象として、ウインドシヤーは予見でき、
また回避も可能であったのに、乗員がそれをしなかったと結びつけたのです。しかし、どの様な速度変化があればウインドシヤーを予見すべきなのか、具体的には示さず、着地9秒前でも着陸のやり直しが出来ると
(実際にはきわめて困難)、証拠もなしに乗員の不注意にこじつけました。
これは、「乗員の責任」に転嫁することで、空港設備の不十分さ(計器着陸装置が一方の滑走路しか設置されていない)や、風の観測態勢の不十分さ等を隠す結果になります。