第3部 私たちの要求
■公開で急減圧実験を行え
事故調の行った、急減圧実験の結果が、事実と大きく異なっていることが明らかになっています。事故調は、報告書で「試験2」と呼ばれている減圧実験中、被験者(当時48歳)は「試験開始から終了まで酸素マスクなしで作業を実施した」旨、報告書に記載していますが、当該被験者が、
航空医学実験隊に見学に訪れた日航の機関士たちに、日航の事故を想定した実験では、急減圧後、「直ぐに酸素マスクを吸った」と語っている事実があります。
私たちは、これまでも繰り返し日航123便事故の原因の再調査を要求してきました。確かに法律上は、再調査を求めたり、報告書に異議を唱える手続きはないかもしれません。しかし、報告書の一番要の部分で、実験結果に重大な疑惑がある以上、事故調は国民に対して、真実を明らかにするために自主的に再調査、再実験すべきと考えます。
■真の原因究明のために、CVR・FDR・残骸の保存を
事故機の残骸は、事故後検察庁に押収されていましたが、92年に日本航空に引き渡されました。私たちは日本航空に対し、残骸保存と公開を求め4度に渡り要請を行いましたが、日本航空は未だに拒み続け、のみならず一部の残骸をすでに廃棄処分にしたことを明らかにしています。
事故調査報告書のCVRの解読やFDRの解析には、現場の乗員が納得できない部分も多く、実際に聞けば正確に解明できる可能性が大いにあります。又、残骸調査も隔壁に集中せず、様々な部位の、多種多様な観点からの、突っ込んだ調査が更に必要と考えます。
CVRやFDR、重要な部分の残骸を破棄してしまえば、本当の原因は永久に闇の中に葬られてしまいます。
私たちは改めて、CVR、FDR、残骸の保存を要求します。
■事故調査と責任追及は分離せよ
今年の(96年)6月13日、福岡空港で発生した、ガルーダ・インドネシア航空DC10型機の事故でも、事故調より先に、警察が犯罪捜査を開始したことは記憶に新しいところです。
従来から航空機事故については、警察による犯罪捜査が事故の原因調査より優先されており、また事故調査報告書が、運航会社による事故関係者の処分、運輸省による行政処分の根拠とされています。その上、刑事責任の追及にも使用されています。
現状では、同種事故の再発防止のために率直に事実を報告しようとすると、責任追及によって不利益を受けるおそれがあります。事故調査は犯罪捜査ではないので、いわゆる「令状」なしで、事情聴取を行っています。それが犯罪捜査に利用されたのではたまりません。
事故調査に当たって真実を述べる必要はありますが、事故調査といえども、当然のことですが、自分に不利益なことまで、述べる義務は全くありません。
現在のように、CVRやFDRは警察が押収し、それを事故調は警察の依頼を受けて、鑑定するような、犯罪捜査と一体となった事故調査を続ける限り、航空労働者や関係者は、事故調に対しても口を塞がざるを得なくなっています。
アメリカ合衆国では、国家運輸安全委員会(NTSB)が原因調査にあたり、
刑事責任に該当する疑いがあるときに、検察当局と協議して処理するようになっています(酒に酔って操縦していた場合などには刑事責任が追及される)。
明確な法違反や怠慢がない限り、全ての証人から、
起訴される怖れなしに信頼できる情報を得るため、
証言については免責が与えられています。イギリスでも、法律違反がない限り、判断の誤りなどで刑事責任は問われていません。
この点について、かつて事故調査委員でもあった山口真弘氏も、
その著書「航空法規解説」の中で、法律上の規制がないとはいえ「事故調査報告書を、刑事手続きにおいて、証拠資料とすることは、事故調査が、犯罪捜査を目的としていないにもかかわらず、刑事訴訟法の手続きに従うとはいえ、結果的に犯罪捜査のために利用されることになり、望ましいことではない。」と見解を述べています。
その理由は、報告書が訴訟に用いられ、これに基づいて責任追及が行われれば、事故調査に必要な関係者の情報の提供が得られにくくなる事にあると思われます(アメリカ合衆国では、事故調査の目的と、訴訟の目的の相違から、訴訟での報告書の利用を禁じています)。
この様に事故調査を困難にし、事故再発防止の機能を失うような現在の犯罪捜査と一体となったような事故調査を、速やかに改める必要があります。
■事故防止や安全に関する問題についての発言は自由に
大きな事故を防止するために、事故には至らないが、
安全を阻害する事態「インシデント」を、匿名や処分を行わない事によって自由に報告させ、事故に至る前の段階で防止策を立てる方法が「インシデント・リポートシステム」として各国で検討、試行されています。
現在のように、機材が大型化し、事故が発生する度に犠牲者の数が更新されていくようでは、インシデントの段階で防止しないと、事故調査では遅すぎるという意見も出始めています。
現代の事故は航空機事故に限らず、例えば原発で事故が発生すると、将来極めて長期間放射能汚染が残り、人類の将来を危うくする事も考えられます。その影響の大きさを見れば、事故が発生してから、防止策を考えていたのでは遅すぎます。
航空界でも事故を無くすために、事故に至る前に不安全要素を自由に報告できるよう、企業側も安全に関するミスについては個人に対し、処分や差別しないようにしなければなりません。特に、働く者がアルバイトとか下請けとかの不安定な身分では、正直に自分のミスを報告すると、
職を失なうのではないか、生活を脅かされる・・・という恐怖がつきまといます。これでは安全は向上できません。差別のない、お互いに自由に意思疎通が出来る、明るい職場を作ることを心がける必要があります。
それによって事故が防止できるため、結果的には企業側も利益につながります。
同時に、社会全体の利益を考えるとき、日本で行われているような、警察優先の責任追及のための事故調査を選ぶか、先進諸外国で行われているような、再発防止のための事故調査のどちらを選ぶのか、みんなで考えるべき時期ではないでしょうか。
日本の航空会社の現状は残念ながら、安全問題について自由な発言が保証されていません。又、事故が発生しても、これまで述べて来たように、科学的で公正な事故原因の調査が行われる保証もありません。
私達、航空の職場に働く者は、自由にものが言える職場を作り、科学的で公正な事故調査を実現させるために、今後も努力を続けます。